知人の死をFacebookで知った話。

最近では珍しいことではないと思うのだけど、Facebookで知人の死を知った。

知人、という言葉を選んだのは、友達というにはおこがましいほど会う回数が少ない女のコの話だから。
共通の知り合いも、1人もいなかった。

彼女との出会ったのは、6〜7年前の夏の、高円寺のライブハウスだった。
会社から夏休みをもらって、大好きなミュージシャンを見に数年ぶりに高円寺へ行った時のこと。
ビールを1杯飲みながら、ちょうど高円寺の阿波踊りやっててそれを見物して、ほろ酔い気分でライブハウスへ向かった。
常連さんも多くいるようなイベントの中、私は初参加。狭いフロア。
みんなが談笑している空気と、ほろ酔い気分の勢いで、普段はそんなことしない私が、たまたま声をかけたキレイな女のコ、それが彼女だった。

彼女は、私と同じミュージシャンを見に来ていて、すぐに仲良くなれたように感じた。連絡先を交換する代わりに、彼女はメールアドレスが書かれたCDをくれた。彼女自身もミュージシャンだった。

そういう時にもらったCDは、私の場合、たいてい散らかった部屋の片隅に積まれて埋もれていくのだけど、彼女のCDはちゃんと聴いた。たまたま英語の勉強をがんばろうと思ってて、枕元にCDプレイヤーがあったというタイミングがよかったのかもしれない。

私の音楽の趣味はちょっと変わっているのだけど、彼女の音楽はとても私の好きな種類のものだった。なので、仕事帰りに、彼女が出るライブを見に行ったりすることもあった。

初めてライブを見に行った日は、ライブが終わった後に、彼女と他のバンドのミュージシャンが遊びでセッションをする輪の中に混ぜてもらった。私は楽器を演奏できないので、音響の調整をするような金具が入った工具箱を叩いて打楽器にした。彼女はぎこちない私を見て微笑みながら、彼女の得意な楽器(?)である声をハウリングさせていた。お客さんが帰った後のライブハウス。ほんのり明るいステージと暗い客席の境目で、リズム感のない私が、音楽の、セッションの楽しさを体感していた。

その後も何回か彼女の出演するライブを見に行った。彼女自身のライブよりも、彼女が参加する即興のセッションを見る機会が多かった。私が見に行ったセッションでの彼女は、すべて最高だった。楽しくて、聞いていて興奮して、心が動かされる、彼女に憧れる。そういうライブばかり見せてもらった。

一緒にライブを見に行ったこともあった。下北沢の複数のライブハウスをまたいだオールナイトイベント。良いライブをたくさん見て、飛び跳ねて踊って、コンビニで缶チューハイを買って、閉店した後の居酒屋の軒先で恋愛トークをした。
私の恋愛遍歴はたいてい人を呆れさせるけど、私なんか比じゃない彼女の恋愛エピソード。
いろんな話を聞いて、もっと彼女のことを好きになった。

一緒に渋谷でご飯を食べたこともあった。帰り道、公園通りの坂道を下りながら「仕事中にね、お酒飲んじゃって、怒られちゃったの」と、両手で顔を隠しながら話してくれて、「なんてかわいい人なんだ!」と大きな衝撃を受けた。
彼女はとても魅力的なので、私のたくさんの友達に紹介したいと感じていたけど、あまりに魅力的すぎるので、自分の恋人には絶対紹介したくないと思っていた。

最後に会ったのも、最初に会ったのと同じ、高円寺だった。商店街をふらふらしながら、コンビニで缶のマッコリを買って飲んだ。店先のふくろうをひやかしたりしながら商店街を歩いた。その後、ビールケースを並べて椅子にしたような居酒屋さんの軒先で、さつま揚げをつまみに、お酒を飲んだ。
その時の彼女は、恋人ととても幸せそうに生活していて、羨ましいな、キレイだな、と感じたのを覚えている。

それから彼女は一度地元に帰り、また東京に戻って来たという話をSNSで知った。夢だったフラワーアレンジメントの仕事についたらしい。ミュージシャンとしての活動もたまに続けているらしい。土日休みの私とはお休みが合わないな…と思いつつ、「いつかご飯でも行きましょうね〜」みたいなLINEのやりとりをしていた。

彼女の死に気づいたのは、Facebookがきっかけだった。最初は彼女のウォールに不穏な投稿が続いて、変だなと思った。「○○ちゃんのバカ」「信じられない」「もう会えないなんて…」…。そして「告別式が終わり、形見分けをしました」という投稿を見て、決定的だと感じた。その報告の投稿者に、迷惑承知でダイレクトメッセージを送った。やはり亡くなられたとのこと。彼女の信号無視が原因の交通事故で、バイクと衝突。即死。
酒癖の悪い彼女のこと、酔っ払っていたのかな…。
なんだか、とっても彼女らしいなと思った。

具体的に会う約束をしていない、知人の死。
Facebookがなければ、知ることもなかっただろう死。

私には、この死を悲しむ権利があるのだろうか。
わからない。

そもそも、私は悲しいのだろうか。わからない。まだ彼女に会える気さえしている。実感がわかない。

ただ、私は彼女に二度と会えないという事実が単純に心から嫌だし、会う約束をしなかったことを後悔している。
数回しか会っていない彼女のことを、心底好きだったんだと思う。
彼女と私の間にあるストーリーが好きだったんだと思う。
彼女はそういう風に人を魅了する力を持っている人だったんだと思う。
存在感の大きな人だった。

天国でも、マイペースに音楽をやったり、フラワーアレンジメントの上達に苦心したりしていて欲しいな。そして、私が天国に行った時にまた何かの話をしたい。恋愛でも、音楽でも、仕事でも。